「秋になったら紅葉狩りにでも行くか」

障子を明け、室内に自然の光を取り込みながら、桂が振り返る。その笑顔は幼少の頃と変わらないもので、こちらまで安心させる不思議な力を持っていた。

「秋って………まだ梅雨あけたばっかじゃねーか」
「夏などあっという間だろう?」
「爺くせェ………」
「ほら、昔先生といった山があっただろう、あの辺りに行かないか?」

幼い頃『課外授業』と称して先生が連れて行ってくれたあの山は秋になると燃えるように紅葉した。あの場所はあまりに田舎過ぎて天人も目をつけなかった為、戦場にもならず、今尚その姿をとどめている……らしい。

「銀時も誘って、どうだ?坂本も呼べば帰ってくるだろうしな。…久しぶりに四人で行かないか。」
「ああ……でも 、」

最近この男は、先の約束を取り付けるようになった。
春には夏の、夏には秋の約束を。

どれも果たした覚えはないけれど。

「坂本はきっと驚くぞ!あいつはあの山は初めてだからな」
「………そうかもな」

余りにも楽しそうに笑いながら言うものだから、こちらも微笑み返してやるとゆっくりと目を逸らす。何処で仕入れてきたのか、紅葉のうんちくを語るその口調はかすかに震えていて。

「だから、皆で行こう」

障子の向こうを眺める漆黒の瞳は煌いて、それを縁取る睫には今にも落ちそうな雫が光っていた。この優しすぎる男は、どうして何もかもを背負い込むのだろう。

「なあ、ヅラ………」
「ヅラじゃない……なんだ?」

呼んで返事をしても振り返ろうとしない強情な姿が、不憫に思えて。
そうさせているのは自分だと思うとよけいに苦しくなって。

「俺はお前とふたりで行きてェ」

驚いて振り返った拍子に、涙が一筋頬を伝って。
それにも気付かず、唯嬉しそうに微笑む男を、綺麗だと思った。

「なんだ、口説いているのか?」
「まあそんなとこだ」

果たせないと知りながらも、それでも俺達は約束を重ね続ける。
”そのとき”が来る、その刹那まで。


『次の、やくそく』2007/6/13/ 2008/3/17修正