冷え切った月明かりに照らされて浮かび上がる白い肌は、艶かしいというよりもひどく儚げで、どうしても直視できなかった。畜生。シャワーを浴びて戻ると布団に奴の姿は無く、驚いて部屋を見回せば窓の淵にシーツを撒いただけの姿で座っているのを見つける。月を見上げるその姿は冗談みたいな話だが故郷を懐かしむかぐや姫のようで、ひどく切なげに揺れている瞳を見たときの俺の動揺は相当なものだった。まったく、おもしろくない。

「お気に召さなかったか?」
「……なんのことだ」
「ヨくなかったのか、ってこと」
「そんな事……」

恥ずかしげに逸らす瞳からはもう先程の揺らめきは消えていて、何故だか腹が立った。どうしようもなく腹が立った。

「それとも、思い出していたのか?」

口角を意識して持ち上げ吐いたとっておきの言葉は、主語が無いにもかかわらず奴には理解できたようで、また瞳に先程の光が宿る。俺は何でも無いふりを装いながら、その判りやすい反応を愉しむことにした。奴の背後に立って同じように見上げ睨みつけた月は、最後の夜と同じように冷たく俺を見下ろした。

「思い出すのはいつも月の出る晩なんだ」
「騒ぐ夜はいつも月が出てたからな」
「俺達はどんどん変わっていくというのに、月は何年経っても何も変わらないと思うとな……」
「……戻りたいのか」
「……すこし」
「甘っちょろいこと言ってんじゃねェよ」

覆い被さるように後ろから抱きしめると、おもったより冷えていた身体は怯えたように一瞬震えた。

「戻れねェだろ」

進むしかないと決めたのも、こんな月の夜だった。
共に杯を交わした連中も、もう殆どいない。

「泣き叫ぼうが、なにしようが………」

取り戻すと、決めたのだから。

その為に殺めた命、犯した罪は生まれ変わって償えばいい。もう後戻りなんざ、できやしない。俺達に残された術は進む他にはなにも無い。



『LONGING』2006/2/3