きれいなひとだと、思った。
それと同時に、守りたいと思った。おかしな話だ。もしこれが物語とかテレビドラマでよくある一目惚れだとして、一瞬で、この女性を守りたいなどと思うだろうか。
その人は吊革につかまり、腰まで届くやわらかそうな髪を揺らしながら、違う学校の制服を着た女の子となにやら話していた。おれはというと隣で話す晶馬の話の内容はまったく耳に入ってこないまま、ただその人を見ていた。”白魚のような”という描写が今まで読んだ本にもたびたび出てきた気がするけれど、その描写がいかに的確なものかおれは今身をもって知った。その人はまさに白魚のような指先をしていて、おれはその手にやさしく触れたいとどうしても思った。けれどその思いと同時に、触れなくてよい、触れてはいけないという勘のようなものが頭の隅で働いたのも感じた。おれがずっと見ていたからだろうか、その人は一瞬だけこちらをみた。だめだ、と思った。なにがだめなのかわからないけれど。やさしい光を放つ目がおれの目を見たとき、おれは息をするのを忘れた。目を逸らせない。
電車が駅に到着して扉が開く。たくさんの人が乗ってきて、おれとその人の視線はさえぎられた。やっとため息をつく。電撃に触れたような一瞬だった。まだ、あの人を守りたいという感情が小さく残っている。だんだんと晶馬の声がはっきりとしてきて、いつもの日常が戻ってきた。電車を降りる一瞬だけ、さっきの人を思い出す。頭の隅でもうひとりのおれが言う。
大丈夫だ、あの人はもう守られている。
2011/12/23 一瞬の、電撃のような
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