まあ顔は悪くないから、大学に入学と同時に彼女ができた。勿論、初めての彼女ではないけれど、大学生というある程度自由の利く身でできた彼女はなんだか特別なような気がして、付き合ってすぐには半同棲のようなこともして、それは結婚生活と同じような気がしたので、自分がいっぱしの大人になったような錯覚を覚えた。けれど、これは俺がわるいのだけれど、すぐに飽きてしまう性分が存分に発揮されて、付き合って二ヶ月目にはもう彼女にあまり魅力を感じなくなっていた。けれど、なんとなく付き合っている。別れるというといろいろ面倒になりそうなタイプの女性だった。こういう風に恋愛をちょっと気だるく感じるのも大人になった証拠かと思っていた。

昨日、転寝する彼女を見ているときに、それに気づくまでは。
「それってなんだよ。もったいつけんな。聞いてやらねーぞ」
まあね、「それ」とか言ってもったいぶるのも変な話だから、大雑把にいうと、要は、「彼女のすべてをいちいち篠岡と比較している」ということだ。勿論、過去に篠岡とお付き合いしたことは無いけれど、奇跡的に3年連続同じクラスだったからそれはもう、引退するまでは朝から晩まで同じ時間を過ごしていたわけで、少なくとも、彼女に淡い恋心を抱いていた1年生からの少しの期間はそれはそれは真剣に、彼女に視線を送っていた。いや、こんな言い方したらストーカーみたいだ。正しくは、なんとなく、気がついたら篠岡を目で追っていたってこと。
「知ってた。全員が知ってた」
その、篠岡を目で追っている間に感じたことを、なんでか最近、よく思い出すんだ。たとえば、転寝している姿が、なんかこう、うまくいえないけれど、あったかくてほわっってしているとか。苦笑いのときの絶妙な眉のラインとか、湿気で髪が爆発したときのちょっと怒ったような感じとか。声のトーンとか首の傾げ方とか、腕の細さ、目の大きさまつげの長さ、勝ったときの涙も、負けたときの涙も。篠岡の全部の思い出を彼女と比較しては、なんだかあんにゅいな気分になる。
やっぱり、告白しとけばよかったんだよな。
そうしてたら、どういう結果になろうと、こんな後悔ともなんともいえない変な感情にはならなかっただろうに。
「そうかもな。でも、一生会えないわけじゃないだろ、当たり前だけど」
次に篠岡にあったとしても、そのときは、一緒に青春を過ごした特別仲のいい友達だろう。それで良いけど。でもあの頃、なによりも野球が好きでなによりもチームが好きで、勿論篠岡のこと、好きだったけど、こんなにも好きだったなんてわからなかったから。卒業式とかさ、せめて、なんか一言でも言っとけばよかったんだよな。

顔を上げて、確認するように話し終えると、当時の篠岡の思い人であるところの阿部は何も知らないまま、そうかもな、と真剣な表情で。


20110811