幼い頃から休日らしい休日をあまり経験したことがないからかもしれないが、オレは丸一日用事が無い日の過ごし方がよく分からず、結局どう過ごそうか考えているうちに夜になることが多かった。そういう話を同僚にしたら、じゃあ1日くらいなにもせずにぼーっとしてればいいんじゃないか、とか適当に言われて、そういえばそういう休日は体験したことが無いと思って今現在、何もせずにテレビにむかっている。窓から入ってくる風は生ぬるく、身体は汗ばんだままだがエアコンは好きではないので我慢しているがさほど辛くはなかった。元々、暑さには強い身体になっている。
世間は夏休み中だということもあり、昼日中のテレビ番組はどこもリゾート紹介ばかりでどうにも独り者にはつらい感じのものだった。喉が渇いたので冷蔵庫から、いけないことだと思いながらも缶ビールを取り出して、先程まで座っていたなまぬるい床に腰を下ろす。適当にチャンネルをまわすと、野球放送をしていた。高校野球だ。知らない高校同士だった。新聞はとっていないので何回戦だかも分からない。それほどまでに高校野球から離れていた。
聖地で繰り広げられる戦いは現在5回ウラ。両チームともゼロ行進を続けていたから、なんとなく興味が出た。関西の焼け付くような日差しの下で汗を流しながら選手達は戦い、応援団も懸命にバックアップしている。2番のユニフォームを着た奴が、丁度打席に入った。オレの好きなコンバットマーチが演奏される。実況者の声の後ろから沢山の声援とメガホンの音が聞こえる。打てる捕手なのだろう。声援にこたえるように、彼は三遊間に安打を決めた。しかし続くものがおらず、結局得点できないままチェンジすることになった。最初にその捕手の打席をみたからだろうが、なんとなくオレは後攻の学校を応援していた。結局8回までゼロ行進は続いて、けれどバッテリーの集中が切れたのか9回で押し出しで1失点。その回のウラ、ツーアウト3塁でバッターボックスに立ったのは5回でヒットをだした捕手だった。声援がおおきくなる。初球、彼が気合を込めて振りぬいた打球は高く、遠くへ舞い上がって、捕られた。球場に歓喜の声が響く。カメラがマウンドで抱き合うバッテリーにズームされたけれど、オレは完全に打者に感情がいっていた。あの捕手は、抱き合って喜ぶ相手チームを見ているだろうか。それとも泣き崩れて、ベンチに連れて行かれただろうか。カメラはまだそれを映さない。オレはどうにもへんな具合に喉が渇いて、半分以下に減ってしまったビールを煽った。ぬるい液体が喉を落ちる不快感に眉を顰めて、そこで、自分の目が涙にぬれていることを知った。感情移入したわけじゃない。ただ、瞬きも忘れるほどに、真剣に試合を見ていただけだ。カメラが泣き崩れる選手たちに向けられる。彼らの夏は終わった。ふと、自分が身体中に力を入れていたことにも気が付いた。苦笑しつつ残りのビールを流し込む。苦くてぬるい。最後の流れが喉を通るとき、漠然と思った。オレらの夏は、もう何年も前に死んでいる。
眠らせてやれよ。

2008/07/17