鏡に向かって一生懸命化粧をなおしたり髪を撫で付けたりする華やかな友達は皆一様に機嫌がよかった。曰く、今回はかなりのアタリよ! らしい。誰が格好いいだの誰はちょっと微妙だの、合コンならではの会話を繰り広げる蝶のような女の子達から少し離れて無意味に携帯を閉じたり開いたりしていると、美里が鏡越しに心配そうな顔をした。
「どしたの千代?具合悪い?」
「うーうん、へーき」
「そう?でもちょっと顔色悪いよ?つかどしたの。テンション低いなぁ。一番張り切って『彼氏みつけるぞー!』って言ってたの千代でしょ!なに、もしかして千代的に今回はNGだったり?」
麻里奈ちゃんがからかうみたいに笑ったけれど、実際彼女の言うとおり、今回はやる気が出ないというかなんというか、自分でもはっきり分かるくらいにローテンションだった。だってあんまりにも偶然すぎる。▲▲大と合コンと聞いたときに勿論あの二人を思い出したけれど、水谷君はともかく阿部君まで居るなんて予想外すぎた。
それにしても、あのふたりの驚きようときたら、本当に可笑しかった。あんなに目を丸くしたふたりを見たのは多分、田島君のドラフトが決まったとき以来だ。あんまりにも間の抜けた表情だったから思わず写メを撮りたい衝動に駆られたけど、流石にそこは何とか耐えた。でも少しだけ後悔している。泉君あたりに回したら、結構喜んだだろうに。
「あたしねー、フミキ君?すごいいいと思う!気が利くし!優しいし!」
「えーちょっとチャラ過ぎない?」
「そーお?でもヒロ君よかマシじゃない?」
「ヒロ君よりジュン君のほうがチャラいでしょ。てか全体的にあんまりチャラくはないと思うよ。ていうか個人的にヒロ君がちょー可愛いんだけど……ねえねえ、千代はどう思う、今日の男の子?」
「うーん、………今回はちょっと…」
相変わらず理想高いねー、 と笑われたけれど(そして私は理想が高いことを自覚しているけれど)今回は本当に理想云々より性質が悪い。余計なお世話、 と同じく笑顔で返して、閉じたばかりの携帯をまた開いた。電話帳から、最近あまり連絡を取らなくなったアドレスを開く。メールを送信し終わって再び未だ鏡に向かう女の子達をみると麻里奈ちゃんが結構まじめな顔をしていた。
「タカヤくん、ちょっとよくない?」
「ああ、それ私も思った!かっこいいけど、でも可愛い、みたいな!」
「ねえねえ、千代は?タカヤ君どう?」
「え、……だから私今回はパス…」
「わかってるけど!とりあえず千代の意見を聞きたいの!」
と言われても、非常に困る。実際阿部君は高校の頃もモテていたけど、なんというか、結構ズバッとくる性格だったもので、共通の趣味を持つ友人としてはとても良いひとなのだけれど、ああいうひとを彼氏にどうだ、と尋ねられれば断固拒否だ。彼に限らず、野球部の同期だった誰にも、これから未来永劫(というのは言い過ぎだけれど)恋愛感情は抱かない確信があった。約3年間、一緒に泣いて笑って過ごしてきたから、もはや彼らは家族に近い。(実際、パンツ姿のまま目の前をうろうろされても照れることさえなかったのだから、あのころの私も彼らをそういう対象にはみていなかったのだろう。)嘘をつく理由もないからここは正直に、
「彼氏にはしたくない…かな」
「えー!マジで?!千代の趣味ってホント謎だよねー」
笑いあいながら、化粧室を出る。
皆それぞれ狙う男の子を決めたみたいで、どうやら私の席はひとつずれて水谷君の前らしい。よりによって水谷君か、 と苦笑して、慌てて心の中で謝罪した。でもだって水谷君、ついこの間彼女の誕生日プレゼントの相談してきたばっかりだったのに!
2008/04/16『これはこれで楽しい気がする』
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