きつく、けれどとても優しく抱きしめられながら過ごす時間。ひとことも喋らず、唯お互いのぬくもりだけを感じることが出来るこの瞬間に体温と一緒に伝わってくる “なにか” を、たまらなく愛おしいと思う。

背後から抱きしめくる名付け親はそのまま眠ってしまったのではないかという程に穏やかな無言だったから、寝てしまったのならそれでもいい、とおれも瞳を閉じた。背中越しに感じる鼓動と微かに聞こえる息遣いが耳に心地いい。愛されている、と実感できる瞬間だった。大きな胸にゆっくりと背を預けると、まわされていた腕に僅かに力が込められる。
「なんだ、起きてたのか」
「陛下が居るのに寝ませんよ、もったいない」
頭のうえから降ってくるコンラッドの笑いを含んだ声がどうにも耳にくすぐったくて、声を立てて笑ってしまった。笑う原因をつくった男は、なんで笑うんですか、と抱きしめる腕に力を込める。一瞬、鼻の奥にコンラッドのにおいがひろがって、ひどく安心する。
「今日はご機嫌ですね」
「いつもと一緒だよ」
保護者の笑顔を浮かべたまま、コンラッドはおれのつむじに口付けた。押し当てられた唇から愛が流れ込むのがわかるような気がする。頭の真ん中から毛の1本1本、皮膚の下を通ってつま先まで浸透する、静かでけれど奥のほうは熱い、もしかしたらそれは愛情だった。コンラッドがおれに向けてくれる感情は何時も偉大だった。偉大で、強くて、何時もおれを優しく包み込んでくれる。コンラッドからそれを貰うたびに、おれは唯ひたすら暖かい気持ちになって、とても安心できる。多分、幸せってこういうものなんだと思う。
「ユーリ」
呼ばれて首だけで振り返れば当然のように下りてくる唇。無理な体勢で交わすキスは角度を変えて、深みを増して脳を蕩けさせる。絡めた指先から確かに伝わる、どちらのものか解らない脈動に感じて、上手く脳が働かない。そのままゆっくりと前に倒れこまされて、もうどうにでもなれ、と思った。逃げるつもりは毛頭ないが、逃げるにしても背中の重みが邪魔だったし、逃げたところですぐにつかまる。それにまず、逃げさせてはもらえないだろう。此処はウェラー卿の私室だし、尚且つ彼は半世紀以上訓練をつんだ軍人で、おれは唯の野球小僧だ。
それにしてもコンラッドがおれに向ける愛情は大きすぎる。普段は静かな表情の下に忍ばせている火傷してしまいそうなほどの愛情を惜しげもなく注ぎ続けるものだから、いつか枯渇してしまうのではないか、と心配になってしまうほどだった。

莫大な量の愛情を惜しみなく。
それをまともに受ける自分は。

「……窒息しそう」
「え?重いですか?」

そんなはずはないって顔をしている、そんなところにまで神経を使う憎たらしいほど男前な夜の帝王はけれど肝心なところで鈍感だったから、おれは応えるかわりに身体を捻って、彼と目を合わせた。ちょうど欲しいタイミングでキスを貰う。

この膨大な愛でおれが窒息してしまう前に。
愛を注ぎすぎてコンラッドが枯渇してしまう前に。
おれも負けないくらいの愛を渡して、バランスを取ればいいと思った。

それが上手く出来れば苦労などしないのだけれど。


『愛燦々』2006/12/11