無事に皆を駅まで送り届けた帰り、なんとなく目が冴えてしまったからそのままファミレスに元希さんを誘ったら少しも嫌がらなかった。一緒に住むようになってからこっち、元希さんはオレにひどく甘いというか、弱いというか、秋丸さん曰く惚れた弱みらしいけど、中学時代がアレだったから正直今でも対応に困る。優しくしてくるのはうれしいんだけどさ。でもまあ、若干ギクシャクしてることに違和感を抱いているのは元希さんも一緒みたいで、花井が誕生日会の話をもってきたときから、元希さんの様子はどこかおかしかった。西浦のはなしをするたびに、元希さんは一昔前に流行ったCMのチワワみたいな表情をした。

「今日はすんませんでした。家借りて、車もだしてもらって」

注文したコーヒーを待つ間、微妙に気まずい空気になって、こんなことならまっすぐ帰るべきだったと思った。元希さんは、やっぱりすこし変なままだ。

「べつに。てかそういう言い方やめろよ、お前の家でもあるんだからさ」
「………元希さん」
「なに」
「西浦の連中、苦手なんですか?」
「別に苦手ってわけじゃ………その、ホラ、シニアのこととかでさ、高校のときとかはオレ、あいつらにすごい嫌われてただろ。…オレも…、今はちゃんと反省してるけど、まだなんかこう、罪悪感っていうか…その…負い目みたいなんが、さ…」
「オレもあいつらも、もうなんとも思ってませんよ」
「だけどさ、」
「今日皿洗ってるとき、栄口が、元希さんとうまくいってるな、って」

ウエイターが置いていったコーヒーの湯気の向こうで、元希さんは体に悪そうな色のメロンソーダを見つめていた。正直、シニアのことをここまで引きずってるとは思っていなかった。

「…嬉しかった。他のひとに、そう言ってもらって嬉しかったんです、オレ」
「…うん」
「オレも、その、訊いときたいんですけど、元希さんが、…元希さんがオレに優しくしてくれんのは、…シニアのときの負い目からなんですか」
「違う。…そんなんじゃねーよ……それとこれとは話が別だ」

馬鹿だと思った。
いつまでも悩む元希さんも、いつまでも先に進めない自分も、すごく馬鹿だと思った。改めて、中学時代からさして進展のない自分たちに、ちょっとがっかりしたけれど、こういうときこそ引っ張っていくべきなのかもしれない。この様子だとシニアの事に関しては、元希さんは相当臆病になってるから、クサい言い方だけど、この事に関してだけは、オレがリードしてあげないといけないんだと思った。

「元希さん、」
「なんだよ」
「来年も、一番に誕生日おめでとう、っていってださい」

子供みたいな顔をした自分より大きいひとを、愛しく感じる。
ぎこちなさは、これから先ゆっくりといていけばいいと、そう思った。