結局、酔ってないのは限度を知ってるアスリート田島と、どこまでもザルな栄口、飲んでいない阿部と榛名さん、それとオレだけになってしまった。特にひどいのは水谷と泉で、こいつらの絡み方ときたら異常なほどしつこい。水谷はともかく、泉もいろいろ苦労してるんだってことがよく分かった。アホみたいにディープな下ネタを連発した巣山は眠ってしまった。
もう1時間ほどで真夜中。明日仕事のウコン組みもいることだし、名残惜しいがそろそろお開きだ、というところで再び水谷が覚醒してしまった。釣られたのか何なのか、泉や沖までもランクルコールをはじめる。そんなに好きなら買えよ、ローン組んで。
「約束だからねーあべー、らんくる!」
「らんくるー!うえー吐きそー!なんかすっぱい」
阿部が呆れたみたいにため息を吐いた。忌々しげにこっちを見る。なんだよ、もう主将じゃねーんだからまとめ役も宥め役も嫌だぜ。そう言おうと口を開けるけれど、オレが言葉を発する前に盛大なゲップをした巣山がほえた。起きて早々げっぷかよ。つかお前マジ声でけーよ。
「んだよーあべー!クソはランクルでオレらは寒空の下歩きかよー。てめー贔屓してっと逮捕すっぞ…うえぇぇ…オレも今なんか酸いのんきた…」
「ねーねー巣山ークソってオレのこと?もしかしてオレのことなの?うそーふみきしょっくー。あ!だったら乗ればいいじゃん巣山も!あべえー、巣山もらんくる一丁はいりましたー!」
「お、オレもランクルが いい!」
「三橋が乗るならオレものらねーとな!」
ちょ、皆抑えろって。つか泉はいつまで9組係りなんだよ。そして三橋はもっといい車乗ってるだろ。知らねーけど。つか、阿部はともかく、榛名さんの前だぞ!?いいのか!?いいのか!?慌てて振り返ると、栄口が困ったように笑っていた。なんだよその度胸。俺も欲しい。再びのため息とともに、多分、今夜の主役だったはずの阿部がやっと口を開いた。
「まあ確かに、不公平ではあるな」
「でも水谷たち、徒歩じゃ絶対駅まで辿り着けないよ」
「わかってる。でも全員となるとさすがに一度では無理があるな…」
そのまま、阿部の視線がすぐ隣で傍観していた榛名さんを見上げる。下からのタレ目攻撃に負けた(かどうかはわからないが)榛名さんは、やっぱりため息をついて。
「わーったよ、出しゃーいいんだろー?出すから睨むなって」
「別に睨んでませんよ、でもありがとうございます。たすかります」
「……タカヤんとこ7人乗ってオレのん2人でいいんじゃね?」
「や、酔っ払い乗せてそれはきついんで、こっち6人そっち3人でお願いします」
「わかった……で、どいつがオレのほう?くじ作るか?」
「なんでそんなことするんですか面倒くさい。ガキじゃねーんだし、適当に乗るでしょ」
「ふーん……ま、オレはいいけど?」
阿部の空気を読めていない発言に泣きたくなった。
ていうか榛名さんは多分オレらを気遣ってくれたんだと思う。だとしたら、もしかしたら結構いいひとかもしれない。でも榛名さんのほうに乗るのはいやだけどな。ぞろぞろと駐車場に歩き出す集団の中で、いかにしてランクルに乗り込むかを必死で考えるオレはちょっと惨めだと、自分で思った。
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