一瞬、嫌な雰囲気になるかと身構えたのだけれど、どうやらそれはオレの思い過ごしだったようで、すでに出来上がっている西浦メンバーと帰宅したばかりの素面な榛名さんはすぐに意気投合できた。でもアレだ、あと3分早く榛名さんが帰ってきてたら間違いなく場の空気は凍り付いていたに違いない。それほどまでに酔った水谷の「文貴酔っちゃったからぁ、帰りはタカヤに駅まで送って欲しいなァ~」攻撃は凄まじかった。阿部は至極鬱陶しそうにしなだれかかる水谷を押し退けてはいたけれど、水谷は(仕事でストレスでも抱えているのか)一向に攻撃をゆるめることはなかった。「文貴はタカヤのランクルで送ってもらいたいのー」とごねる水谷に粘り勝ちされた阿部が嫌々(でも多分最初から送るつもりだったとおもう。だって阿部、コーラしか飲んでなかったし)了承して一段落したところで、パン屋の袋を抱えた榛名さんが帰宅したのだ。

「うまくいってるみたいじゃん」

野郎どもが食べ散らかした食器を片しながら、隣で同じように皿を漱いでいる阿部に話しかけてみる。ちょっとびっくりしたような表情の後わずかにはにかむ姿は子どもみたいで、幸せなんだなぁ、と思った。榛名さんが荒れてた頃をオレは知らないけど、そのせいで阿部が荒れてたのは知ってるから、ちょっと嬉しい。愛されてるんだろうなぁ。

「悪いな、片すの手伝ってもらって」
「いいよ、阿部こそ誕生日なのにアッシーお疲れ。つかオレも乗せてって」
「あーべつにそれはいいけど…」
「水谷じゃないけどさ、オレも阿部のランクル乗りたいんだよねー」
「なんで?」

阿部の声に被さるように、リビングから爆笑が聞こえてきた。なにやってるんだか。

「だってさー、車内戦争なんでしょ?」
「はあ?」
「榛名さんの球団のグッズと田島んとこのグッズがごっちゃになって並べられてるって沖が」
「あー、一回乗せたかも…いや、あれは整理してなかったときでだなあ、今は違うぞ」
「そーなの?今はどんなん?」
「両方のステッカー貼ってて、両方のマスコット人形が仲良く座ってる感じ」
「なおさら乗りたいよ」
「はぁ?お前どーゆー…」
「タカヤー、ウコンどこ?」

ぺたぺたと裸足でキッチンに来た榛名さんに靴下を履くように言ってから、阿部は納戸からウコンの力を取り出した。なんだよ、そんなにでろでろな奴いるのか?

「あと毛布も」
「はあー?誰だよ寝てるの…ったく、…面倒だからベッドの持っていってください。あと、忘れないうちにさっさと靴下も履いて。床暖でも裸足は禁止です」
「へいへい」

言われるままに行動する榛名さんがちょっと意外だった。テレビでみるときもよく首振ってるし。や、べつにマウンドで首振る人が私生活でも首振るとは思ってないけど。ところで、寝ているのが誰かはわからないが、この家の寝室の毛布を掛けられるなんてちょっと不幸だと思った。なんか、こう、独り身には辛いにおいとかしそうだから。

「なに笑ってんの」
「いや、別に……誰だろうな、寝てるの」
「クソレじゃねーの。あいつ榛名帰ってくるまえからべろべろだったし…」
「意外に巣山とかねー」
「えー、あいつ酔ったら下ネタしか言わなくなるじゃん…帰って欲しいなぁ」

自分で言って自分で笑う阿部は、やっぱり幸せそうだ。



家庭的な栄口とランクル持ってる阿部