「西広ー」
振り返ると、昔以上にがっちりした体格の巣山が軽く手を上げていた。タバコを咥えていて、それがなんか、刑事って感じでかっこいい。照れて殴ってくるから本人には言わないけど。
「久しぶり巣山ー」
「おう。どうよ、仕事のほうは」
「楽しいよ。今は学級閉鎖だけどね」
「マジで!?あ、インフルエンザ?すげー流行ってんのなー」
「もしかして予防注射してないの?」
「したー」
「なんだよそれー」
相変わらず、独特なノリのひとだ。
「プレゼント、買った?」
「うん」
「まじで!?なに?」
「本。これ」
「なに、何の本?英語?」
「英語で内容は数学の本。暇つぶしできる本が良いって言ってたから」
「うえー………」
「巣山は?」
「オレ?オレはビール。お歳暮で送ったらさ、送料安いんだぜ。多分今日飲むんじゃねーかな」
「あ、それはごちそうさまです」
「うん」
待ち合わせ時刻の40分前。時間に厳しいわけでもないけど、ルーズでもない人種のオレたちらしいといえばらしいけど、でも一番大事な人がまだ到着していない。どうせ遅れてくるだろう、と思っていると巣山が「西広、どうせ遅れるって思ってるだろー」と笑ったからびっくりした。なんだろ、推理力?同じ公務員でもこっちのほうはまったく未知の世界だから、よくわからない。
「まあのんびりしとけばいいんじゃん。急ぐわけじゃないし」
「でも寒いからさー、あの喫茶店入らね?あそこからならここ、よくみえるし」
「そだねー」
喫茶店からひとを探すなんて刑事ドラマみたいだ、と思ったのは秘密だ。
驚いたことに、10分も経たずに、彼は到着した。
オレらの神様は、もう見上げるほどでかくなってて、顔を隠すためにサングラスなんか掛けてて、ちょっとらしくない気もしたけど、かっこよかった。入ったばっかりだったのになー、って残念そうに巣山が笑って、俺も笑って、店を出る。飲み会もとい、誕生日会の場所を知らないオレたちのために、よく知る田島が案内役で来たわけだ。
「お!巣山ー、西広ー!はえーな!」
「…あいつ、顔隠してもあれだけ派手じゃ意味ねーじゃん」
「まあ、そこが田島らしいんじゃね?」
「そーだけどさー……」
「なーなー、ケンタよっていい?阿部にお使い頼まれてんの」
「いいよー」
「阿部、はりきってものすげー量予約したらしいぜ!あ、他に欲しいもんあったら買うけど、どーする?酒は巣山のんと、あと栄口が持ってくるらしいけど…もうちょっと買うか?」
「どーする?」
「そりゃ酒はたくさん欲しいけど……金がなー」
「あ、それは大丈夫。阿部から榛名の金預かってきてるから!」
それは、……大丈夫なのか?
小学校教師西広と刑事巣山と、オレらの田島様 |