「わりーわりー」

キャップにサングラス、はあくまでバレないためのものなのだろうけれど、図体でかいし、正直、ガラが悪い。悪目立ちしていると教えるべきか否か考えてしまうような格好で、そいつは現れた。14時過ぎのことだった。

「お前、絶対悪いと思ってないだろ」
「思ってるっつーの」
「じゃあ昼は榛名の奢りな」
「あぁ!?」
「『あぁ!?』じゃない!せっかく最後の有休使ってやったのに2時間も遅れるお前が悪い」
「ふぇーい……お前、相変わらずほんッと図太いなー」
「榛名ほどじゃないよ」

ファストフードは昔から嫌っていたからスルーして、少し遅めの昼食はうどんにした。なんの前知識もなく訪れた店だったけれど、結構おいしくて、後から知ったんだけれど、その店はテレビや雑誌でも取り上げられるようなところだったらしい。

「今度タカヤ連れてきてやろー。あいつう美味いうどん食いたがっててさー」
「あ、タカヤで思い出した。……これ」
「…?なにこのでけー袋」
「なにって、誕生日プレゼントだよ」
「あけていい?」
「いいわけないだろ。パンだよ、パン」
「は?パン!?」
「ウチの近所のちっさいパン屋のなんだけどさ。この前あげたらタカヤ、絶賛してたから」
「それさ、オセジじゃねーの……?」
「旨いんだよマジで。いっぱい量あるから、今日皆で食べれば。ちょっとは腹のタシになるだろ」
「はぁ?なんだよ今日泊めてくれるんじゃねーのかよ?」
「気が変わった。お前デカイし邪魔だし、それに今日彼女呼ぶし。つか帰れよ、自分家だろ」
「なんだよそれー…オレと彼女どっちが大事なんだよ…」
「悪いけど彼女。つかなに、田島となんかあったん?」
「…田島は関係ねー。…で…もオレ、ニシウラに嫌われてるし…」
「あーまーそれは多少あるかもな。でもだからこそ仲良くやってます、ってところをアピールしたらいいんじゃん?てゆーかなに遠慮してんだよ気持ち悪いなー…」
「お前には俺の気持ちはわかんねーよッ」

腕も良いし顔も良い。実績もあるし、年俸すごいし、高級マンションに住んでる。一見、なに不自由ないような生活をしているようにみえるスーパースターだけど、実際はひとつ下の男の子に10年以上前からご執心でやっとの思いで手に入れたはいいけど尻に敷かれてて、ほんのちょっと言い争っただけで(まあ、これはシニアのアレで敏感になってんのかもしれないけど)、真夜中だろうが早朝だろうが電話でうじうじしてくるような男の気持ちなんて、正直わかりたくない。まあ、タカヤのことでぐるぐるしてしまうのは、仕方ないけどさ。でも、

「……お前、ぐるぐる考えすぎなんだよ。とにかく、パンもって飯時には帰ること。それまでは遊んでやるから。どこ行く?つか車どこに止めてんの。」
「………駅前のデパート」

あの榛名元希が自店のパンを抱きしめてると知ったら、あのちいさな店の店長さんは感動で涙するに違いない。というか、これはアレか、すねてるのか。

ちょっとむくれた顔でパンが入った袋を抱きしめ気味な男を、オレは榛名ファンとタカヤに見せてやりたい、と思ったけど、アレだ。結局前者も後者も、表面的な反応こそ違うだろうけど、行き着く先は「このひと可愛いなぁ」で間違いない。



実はいろいろ考え込んでた榛名と彼女モチ秋丸