確実に不機嫌になるので元希さんに言ったことはないが、固く絞った熱いタオルで身体を清められているときが、実はいちばん好きだったりする。

「タカヤ、きもちいい?」
「……訊きかたがいちいちやらしいですよ」
「その気になった?」

元希さんは挑発するように笑ったけれど、身体を拭く手を止めないから、第3ラウンドに突入するつもりは無いらしい。多分明日西浦のメンバーが遊びに来るから気遣ってるんだろう。それでも2発するあたり、優しいのかそうでないかは微妙なところではあるが。
蒸されたタオルが首筋を行き来して、これは冗談でなく本当に気持ち良い。たいていの場合は眠っている最中に施されるのだが、たまには意識があるときに清めてもらうのもいいかもしれない。

枕もとのデジタル時計は、もうそろそろ日付の表示を変えようとしていた。

「おい、寝んなよ」
「……なんで」
「……つまんねーだろ。オレまだ眠くねーし」
「オレは疲れてるんですよ……明日早いし…」
「……三橋かよ」
「群馬からそのまま来るっつってるから、一日遊んできます」
「ふーん」
「拗ねないでくださいよ。…元希さんも、秋丸さんと出かけるんでしょ?」
「それは昼から。それまではウチで寝とく。つか別に拗ねてねーし」
「…寝過ごしたりしないでくださいね、オレ居ないんだから起こせませんよ」
「ガキ扱いすんなっつーの!」
「はいはい」
「うぜー。かわいくねー」
「あんたに可愛いなんざ思われたかねーっつーの」
「うそ、可愛い。好き」
「……酔ってるんですか?」
「なんでそうなるんだよ……」

べしっ、とタオルで顔面を叩かれて、けれど苛立ったりはしなかった。認めたくはないけれど、腹を立てるには今のこの空間は甘やか過ぎた。

「タオル、冷たくなってきた?」
「まだいけます。つか元希さん、」
「あー?」
「オレからこういうこと言うのもなんなんですけど…」
「んだよ?」
「もうとっくに0時過ぎましたよ」
「あーっ!…っそマジかよ…あーもー…うぜー。つかお前わざと黙ってただろ」
「それより、言ってくれないんですか?」
「あー…。お誕生日、おめでとうございマス」
「ありがとうございます」

誕生日になった瞬間にお祝いを言う、という元希さんの(高校時代からの)目標は、今年も達成されなかった。アホっぽくて笑えるけど、慰めることは、なんでかできない。「来年挑戦すればいいでしょ」って、オレは毎年、なんでか言えない。



甘いんだかシリアスなんだか、なハルアベ