「おつかれさまでーす」

店を出しなにケータイをひらくけど、最近不調なもんで一度電源切るとなかなか入ってくれない。今回も長押にも限度があるだろってほどに長押してやっと液晶に光をともせた。短気なのは未だに治せなくて、その20秒弱に苛立ってしまったけど、開いたメールボックスになつかしい名前が表示されてちょっと治まった。いや、別に花井に癒しを感じてるわけじゃないけど。

[相手がオレだからいいものの、着歴あったら掛けなおすのが礼儀だぞ!?]

お前だから掛けなおさなかったんだよ、 と思ったけど、この前同じことを浜田に言って説教食らったばっかりだったのを思い出した。ホント、どいつもこいつもお母さん気質でアホみたいだ。自然と緩む口元を押さえながらスクロールする。やっぱり不調らしく、画面が必要以上にブレて苛立った。

[11日、来れそうか?阿部が、車出しても良いっつってるけど、どうする?]

へー、あの阿部がオレのアッシーになってくれんのか。つかどんだけ誕生日祝ってもらいたいんだよあいつ。つか誕生日っつったらプレゼントだよなぁ…。どーする。どーしよう…。とりあえず、花井に電話掛けなおしてやろう。

「浜田に頼むから迎えはいいわー。それか電車で行くし…」
『……………泉か?』
「はぁ?お前確認しねーで出たのかよ?」
『寝てた……』
「まじで……掛けなおそーか?」
『いい、目ェ覚めた…。……じゃあ来れるんだな?』
「多分…シフトはいれてねーから大丈夫だとおもうケド、まだわかんねー」
『売れっ子は忙しいんだなー…。雑誌とか載ってるらしいじゃん』
「今度剃ってやろうか?」
『いらねーよ!つかさあ、お前なんか買ってく?』
「うえー…それ訊くために電話したのに……どーする?食い物はなぁ…なんかあいつ普段からすっげー良い物食ってそうだし…同じ理由で酒もダメだろー?」
『マジ!?栄口酒もってくっつってたぞ』
「ならなおさらダメじゃん…阿部ってなに欲しいんだ?あいつなに好きだっけ?」
『つか欲しいものなら全部買ってあげます、ってひとがそばに居るから問題だよなぁ…学生ンときに「車買ってやる」って言われたらしいぜ。なんとか断って、働き出してからローン組んで買ったっつってたけど…』
「まじでー!?引くわー…。阿部阿部…なに好きだあいつ?同クラなったことねーからわかんねー!…つかとっくに成人した野郎にプレゼントなんて普通やらねーっつーの。なあ?」
『でもなんかオレらそーゆーイベント見過ごせねー体質になってるだろ…』
「あーまーそーだけどよー………あ!オレ決めた!ちょうどいいのがあった!」
『はあ?マジ!?なんなん?つかずりーなー。オレのも考えてくれよ』
「当日のお楽しみー。…そーゆーのは自分で選んでこそ価値があるんだよ!」

プレゼントを受け取る本人が聞いたら顔をしかめそうなことを元主将(オレにとっては今でもキャプテンだ)に言い聞かせて、電話を切った。あれを皆の前で受け取る阿部の顔が想像できてかなり楽しい。高3のときに借りたままになってたエロ本は、多分まだダンボールのなかに眠っているはずだった。



泉は売れっ子美容師だったら萌え