先輩になかば無理やり連れられて向かった2軒目の居酒屋に、多分確実に3日後に顔をあわすだろう人物がいて、なんかちょっと微妙な気分になった。ああみえてそういう空気はよめる奴だから、皆の前で冷やかしたりはしないだろうけど、なんか、なんとなく気まずい。その気まずさを別な方向(たぶん、シーズン中の相性のことだろう)に解釈した先輩が、まあ飲めよ、と席を促したから、オレはおとなしく従った。

「榛名は田島の隣なー。来季は手加減してくれるように頼んどけ!」
「はァ?なに言ってんだよ!おい田島ー、来季も榛名キラーでたのむぜ!これ以上こいつに調子乗られると今度こそリーグ優勝されちまうからな!」

飲む前から出来上がってるうちの先輩たちと、その同期でもある田島のチームの先輩たちがだらだら喋りだす。そりゃまあ、確かにオレは田島苦手だけども、そんなプライドもへったくれもないようなことは当然しない。つーか田島も、狙ったみたいにオレから本塁打とってくから腹が立つんだけど、今はそんなことどうでもいい。ぐびぐび音を立ててジョッキを空にしていくひとつ下の後輩は、いつもはなかなか酔わないくせに今日はやけに絡んできた。

「オレも11日、榛名んちゲンミツにいくからなーッ!」

先輩なんだから”榛名さん”って呼べって言ってもきかないのは高校の頃からだからもう諦めてる。つーか田島に榛名さんって言われるのは正直キモチワルイ。

「おー来い来い。っつってもオレはいねーけどな」
「えーなんで!?すげー久しぶりに行くのに!なになに、もしかして気ィつかってんの?」
「はぁ?……なんでオレがニシウラに気ィ使うんだよ!」
「ふーん、まーいーけど。阿部、さみしがんねー?」
「さみしがんねー。…あいつがそんなたまかよ」
「だよね!そんな阿部はキモい!」
「おいコラ、キモいっつーな」
「つか榛名は阿部の誕生日プレゼントなにすんの?」
「あ?…ああ、そーいやまともなもんやったことねーな」
「まじで!?ケンタイキ?」
「あー!?なんだー榛名ー!おまえ女いんのかよー!?今度紹介しろ紹介ー!」

倦怠期という単語に過剰に反応した先輩を適当にあしらってから田島を睨みつけるけど、「そんな怒るなってー」とかわされた。なんかこいつ、本格的にオレの苦手な人種になりつつある気がする。

「つかお前は?あいつになんかやるの?」
「オレ?オレはねえ、盗塁王とベストナインがプレゼント」
「はぁ?なんだそれ」
「だって昨日阿部に何が良いか電話したら、『お前が元気に野球やってるのみれるだけでいいから、来季もがんばれ』っていってくれたからさあ、じゃあそれでいっか、って」
「あいつ………田島の母親かよ…。つかオレ、そんなん言われたことねーんだけど」
「まじでー。愛されてないなー!…で、榛名はどーすんの?」
「……べつに…なんも考えてねーし…」
「あ、もしかして『誕生日プレゼント、オレ』とか!?」

もともとでかい声なのに酔ってるからかなんなのか、さらに大音量で言いやがったから、先輩には絡まれるわ、いらん助言をされるわで、もう散々な飲み会だった。



なんだかんだで仲は良い榛名と田島様