その瞬間、オレは背後にいた。
いたにもかかわらず、何も出来なかった。


スローモーションのように目の前に倒れる恭弥の、飛散する血をみて、目を丸くすることしかできなかった。とんでもねぇ馬鹿だった。


白いベッドに横たわる体はいつもよりも小さく見えて、いつもよりも確実に白い。
未だ意識は戻らないが命に別状はないそうで、2・3ヶ月の入院で全治できると医者は言ったが、おそらく、傷は残るだろう。この世界で生きていくには仕方のないことかもしれないが、それでも、この綺麗な身体が傷つくのは嫌だった。

俺のせいだけれど。

今も、あの時も、オレに存在理由はなかった。
オレがいなくても点滴は恭弥に栄養を送り続けるし、酸素マスクは呼吸を補助する。あの時なんて、オレがいなければ恭弥はかすり傷ひとつ負わなかったのではないだろうか。

「恭弥……」
「お前らしくねーな」

肩に重みを感じても、その人を確かめる気にもなれなかった。
師には悪いが、今は何時目を覚ますかわからない恭弥だけを見つめていたかった。誰にも邪魔されない白い部屋で、恭弥とふたりで居たかった。

「オレらしいってのはどんなだ?」
「オレの知ってるお前はキレて相手を身元が解らなくなるほど討ちつける奴じゃないぞ」
「ロマーリオの奴……」
「5人がかりで止められたそうじゃねーか。そんなにヒバリが大事か」
「……何も出来なかったんだ」

久しぶりに恭弥と逢えたから調子に乗っていた。
油断していたのはオレのほうで、敵対してるファミリーの連中が襲ってくることも考慮しなければならなかったのに、唯、餓鬼みたいにはしゃいでいた。だから向けられた銃口にも気付かず、恭弥はオレを庇って撃たれた。それで。それでオレは。それでオレの存在理由は消えた。

「そんなもんだ」

何もかもを悟ったような口調で、師はそれだけを言った。あまりにも軽い言葉。人の命の話には凡そ出てきてはいけないような言葉で、頭に血が上りそうになったのだけれど、此処は病院だし、なにより、言った本人の目が切なげに揺らいでいたから、くだらない苛立ちはすぐにどこかへ消えた。この男はオレより沢山修羅場を潜っている分、喪ったものも多いのだろう。

「大事なときに大事なことが出来るわけねーだろ」
「リボーン……」
「そんなもんだ、人間なんてな」
「ヒバリの目が覚めたら伝えとけ。『入院中のお前の仕事は獄寺が引き継ぐぞ』ってな」

『そんなもの』といって片付けられることではなけれど。

でも。

「ありがとな、リボーン」
「……貸しひとつ、だぞ」



vintage