たとえば、の話。
どうでもいい話だから、笑って聞いて。でも、真剣に答えて?

「たとえば、この世に蕎麦って食い物が存在しなかったら、ユウ、どうしてた?」
「そもそも、コレは蕎麦と呼べる代物じゃねェ」

不機嫌そうにユウが指差したのはアレン特性天ぷらそば(笊)。Sッ気満々な笑顔で「食え」と言われれば、ドMなユウは簡単に乗ってしまうから。でもコレ、SM云々より、生死が危うい感じがするんですが。

「いや、ユウちゃん。俺が言いたいのはそーでなくてね。」
「あ?つーかお前もコレ食え」
「いやさ!っていうか俺の話聞いてよ!」
「………聞いてる」

蕎麦の上に乗った魚の御頭を指でつまみあげながらの返答。いや、真面目に聞いてよ。っていうか眉間と鼻にすっごい皺入っててブサイクさ、ユウ。

「聞いてないっしょ……」
「聞いてるっつってんだろ!うわっ、臭ッ!」
「臭いもんを俺の皿に乗せないで!っていうか聞いてたんなら何て言ってたか言ってみ!?」
「………」
「ほらー!ユウ!人の話は聞く!」
「聞いてた…ちょ、コレ、洒落になんねー。臭ェ………」
「………しゃーないからもう一回言ってあげるけど、『もしこの世に蕎
―――――――
「もしもこの世にお前が存在しなかったら、俺は他の誰かとデキてた」
「ユ……」
「でも、"もしも”の話は無意味だ。蕎麦もお前も、もうこの世に存在してる」
「ゆう……」
「お前の例えはワンパターンなんだよ。もっとボキャブラリー増やせ馬鹿」

言いながら蕎麦を汁にくぐらす。まるで、俺のことなんてどーでもいいみたいに。つーか結局食べるのか。っつーか、ユウにボキャブラリーで説教されるなんて思ってなかっただけに結構ショックなんですけど。

「酷いさ…」
「オェ……不味……」
「俺は真剣に悩んでたのに……」
「お前のネガティブ思考に付き合ってられるほど暇じゃねんだ。オラ、食ったなら腹ごなしに修行付き合え」
「修行て……っていうか俺の悩みはぁ……?」

いつまでも項垂れる俺にいい加減腹が立ったのか(というかアレンの蕎麦のせいでキレ度が三割増さ)ユウは俺の胸倉を掴むとヤってるときとは全然違う低い声で呟いた。俺にだけ聞こえる声で。でもユウ、胸倉と掴むとか、目立つ行動しないで。皆こっち見てるさ。

「お前はもう生まれてて今、この組織にいるんだ。どうあがいても手遅れなんだよ。生まれる以前のことをぐだぐだいう暇有ったら未来のことで頭抱えろボケが」

乱暴に手を離して団服翻して歩いていくユウの背中は、なんかいつもと違って男前で、不覚にもときめいてしまった。



ワンパターンな人