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目の前にあるのは人だったモノ。
敷き詰められた白い花びらに埋もれて、橙の髪がいっそう紅く見えた。
そういえばこの男は鼻炎持ちだった。この花畑をみせたかったんさ。馬鹿みたいに気障な事を言う傍でくしゃみばかりが目立っていたあの日の光景が鮮明に思い出される。鼻を啜りながらも懸命に花の良さを説明する姿が滑稽で、どうしようもなく愛しくて、ふたりだけだったから、声を立てて笑った。
何故だろう。
普段は忘れている記憶、脳の奥深いところで眠りについていた思い出。どうせなら死ぬまで眠っていて欲しかった幸せな記録が、次々と蘇っては消える。如何して今なのだろう。今思い出したら、泣いてしまうかもしれないのに、如何してだろう。
棺が閉じられ、ラビは姿を隠した。
無意識に這わした指も、冷たく硬い蓋を通り抜けることは出来ない。無機質な壁に阻まれて、もう触れられなかった。不透明な空間で、もうお前を見ることさえ叶わない。一所に集められた沢山の棺の、お前が入った箱を見分けることすら困難になって。お前が今どこにいるのか解らない。
どこにいるのか、わからない。
ほんの少し目が熱くなって、鼻の奥がツンとしたけれど、やっぱり涙は出なかった。出ないほうが、いろいろ都合がいい。
「馬鹿じゃねェの」
俺も、お前も。
「馬鹿だろ……」
知ってたけど。
最初から、知ってたけど。
memorial