たとえば、大気に溶け込むこの煙のように。
徐々に輪郭を喪って、やがて、だれにも悟られずに消え去ることが出来たらいい。
「なんつって。」
お馴染みの人のよさそうな笑みを浮かべてラビは言った。
神田は何も言わぬまま、ラビの指先に挟まれた煙草の、そこから立ち昇る煙を見つめていた。細く長く天へとの昇る紫煙はやがて。
それはやがて、大気へ還る。
「おまえ、馬鹿じゃねェの」
「うん、馬鹿かも」
「そんなに嫌なら、やめちまえ」
「…………ん。」
「やめて自由になればいい」
「ん」
「自由になったらお前、」
「毎日ユウとエッチする」
「………それじゃあ今とたいして変わらねェだろ」
ラビは笑った。
自分を嘲る顔だった。
「自由ってのは、不自由のなかに在るものさ」
短くなる煙草と落ちる灰をそのままに、ラビは只、立ち昇る煙を見つめていた。僅かに細められた瞳が何を見据えているのか神田には理解できなかったが、それでも力になりたいと、そう思った。だから。
「手、貸せ」
「へ?」
「手。」
「んあ、ちょいまち」
最早口にする事が出来ないほどに短くなった煙草を地面ですり潰してから、ラビは手を差し出す。神田はその手をとり、骨ばった指を自分の其れと確り絡み合わせた。互いの指から感じ取れる鼓動が、やけに大きく響く。
「ユウ………?」
「この手を離すなよ」
「え?」
子供のように小首をかしげるラビに、神田は只切なくなるしかなかった。自分と同い年のまだ半人前の餓鬼が、その双肩に重くて過酷な運命を背負っている、背負い続けなければならない。そのことがこの優しい青年をどんなに傷つけるか知れない。だからせめて。
「お前はひとりじゃない」
「ゆ………?」
「何処に居ても、一緒だ。約束だ。」
行き着く先のその向こうが闇だとしても、構わない。
傍に互いが居れば地獄も天国になるようにさえ思えた。
「だから、離すなよ」
「うん………」
哀しそうに眉を寄せて笑うラビの姿はやはり痛々しかったが、それでもいつか心の底からの笑顔が見れたらいいと、神田は思う。
「ユウ………」
「なんだ?」
「俺今、めっちゃときめいてるんですけど」
一瞬呆れたような表情をした神田は、しかし次の瞬間には笑っていた。
実に彼らしい『逃げ』だった。
「馬鹿じゃねェの」
アオイ、アオイ