彼女が私室にひとを招き入れることは珍しくないから、こちらもごく自然に了承した。平日の午後のことだった。部屋の扉をノックすると鈴の転がるような軽やかな返事に迎えられる。お待ちしていました、と彼女は言った。おれは勧められるままに、彼女の部屋のテーブルについた。待っていた、と言った割りに、テーブルの上に出されている柑橘系の紅茶は淹れたてのように湯気をたてていたから、きっと彼女はおれの午前中のスケジュールを把握し、且つ、此処を訪れるか否か迷う時間をも計算していたのかもしれない。
どうぞ、と彼女はおれに、おれが人前でものを口にしないことを知りつつ紅茶を勧めた。ご用件は?軽く尋ねたつもりの声が嫌気がするほどに鋭く尖っていて、おれは内心舌打ちしたけれど、彼女はそんなこと気にも留めずににこにこと微笑むだけだった。ところで彼女は、おれに紅茶を勧めておきながら席にはついていない。おれに出された紅茶の丁度向かいには暖かい匂いを纏ったカップがある。冷めてしまいますよ、とおれは言った。別にそんなことを言う必要は無かったのに、けれどなんとなく。
彼女はやはり笑って、お茶を飲んだら一緒にしませんか?と正方形の、平たい箱をテーブルの上においてから席に着いた。彼女の白い指が落ち着いた装飾を施している箱の蓋を開ける前に、中身がわかって喉を締め付けられているような気分になった。

箱の中身は、色とりどりの折り紙だった。



2008/10/08『初秋の風に流れ』
辛いとか苦しいとか、スザクがどんなに必死になって隠そうとしても、ナナリーにはお見通しだったら嬉しい。