瞼を突き抜けて届いていた光が遮られたことに気付いてゆっくり眼を開けると、見知った顔が怒ったような困ったような微妙な表情で覗き込んでいたから、俺は静かにかなり驚いた。河川敷の暖かい緑と大きな白い雲が漂う青空のあいだで、ウチの制服を着たクラスメイトが缶コーラ片手にスポーツバッグ背負ってる様はなんだか夢なのか現実なのか一瞬よくわからなかったけれど、現実だと決め付けた。寝ていたのか?と尋ねられる。まだ覚め切らない頭でなんとか考え付いた言葉が今、何時?というのはなんとも情けない話だが、相手はそんなこと微塵も気にかけず、1時半、と答えた。あ、そう。結構寝たなー。と納得しかけた自分をもう一人の自分が慌てて制する。1時半じゃないでしょ。なに旦那学校サボってんの!?叫んだ拍子に、唇がヒリリと痛んだ。

 俺の質問には答えず、クラスメイトはにっこり微笑んで、負けたのか?と一言。
 時たま、この人は無意識なのか何なのか、何気ない一言で核心をつくことがあると思う。今がまさにそれで、でも勿論俺はここで、ハイ負けました。なんていうほど素直でも意気地なしでもないわけで。とりあえず、サシなら勝てたよ、 とだけ言っておいた。負けたって言っているのと同じだけれど、負けたって言うより幾分かプライドが残るので、うん。サシなら勝てた。だって勝ったら旦那、怒るでしょ?いや、負けても怒られるんだけど。

 佐助は喧嘩が好きなのか?
 身体を起こした俺の隣に腰掛けて、クラスメイトは呟いた。別に好きじゃないよ。俺、平和主義だから。足元をさわさわと揺れる雑草を弄びながら、旦那は笑った。お主が平和主義者なら皆平和主義者だぞ。俺もつられて笑ってしまう。真昼間から男子高校生ふたり隣に座って微笑みあって、傍から見れば結構ヤバい感じだと思ったけれど、幸い周りに人は居なかった。眩しいね、旦那。紡いだ俺の声は自分でも吃驚するほど甘やかなもので、あ、でもコレ言ってる顔がボコだから様になんないな、と思った。勿論、言われた旦那は訳がわからないとでもいう風にきょとんとしていて、だから俺は青空に旦那のカッターシャツが白すぎて眩しい、と説明してやった。本当はそれだけではないのだけれど、それを言っても何の意味も無いので黙っておく。納得したように微笑んだ旦那は、なら佐助も眩しいな、 と俺のシャツを指差した。成る程、白いシャツに点々と返り血が付いていて、けれどそれはどちらかというと黒ずんでいるから眩しいとは違うんじゃないか。そう言おうとしたのに、突然目の前に差し出された飲みかけのコーラに驚いてかなわなかった。口内に沁みると解っていても眩しいほどにCokeの弾けるそれを笑顔で受け取ってしまうあたり、今日はほとほと負け続きだと思う。


2006/2/04『
い微炭酸シルビア』