綺麗な着物を着た、元希さんお気に入りのアナウンサー(プロになったらインタビューしてもらいたいっていつも言ってる)が、多分ジャニーズのひと(名前忘れた)と一緒に司会をしている。コーナーが変わるごとに新しいゲストが来て、そのたびに今年に入って何度聞いたか知れない、『あけましておめでとうございます!』その局を代表する番組のメインのひとたちが集まっていろいろする間、BGMはずっと、あの琴と尺八の曲。有名なはずだけど、タイトルなんだっけか。期末で出たような気がするけど思い出せない。母さんにきいたらすぐに教えてくれそうだけど面倒なのでやめた。チャンネルをまわしても、どこも同じようなことをしていて、しかも全部BGMがあの曲だったからちょっと笑えた。

お年玉は昨日の夜中に貰った。今は母さんが作ってくれた御節を食べ終わって、食休みの最中。お餅にへんなこだわりがある父さんはレンジで加熱したのは好きじゃないとか何とか言って、わざわざコンロで焼いてる。換気扇が吸いきれなかった香ばしい匂いをかぎながら、なんとなく、似たような番組をはしごしていると、背後からぽん、と肩を叩かれた。

「凧揚げ、しねー?」

かわいいひとだとおもう。
母さんはよく「タカはなんでも自分でしちゃうからつまらない。だからシュンちゃんのが可愛い」っていってるけど、オレからしてみれば兄はすごい可愛い部類に入るとおもう。いや、別に変な意味じゃなくて。たまに殺したくなるけど、基本的にはなんつーか、性格が可愛らしい。今も、去年買った凧を脇に抱えた兄はダウンのコート着て、マフラーぐるぐる巻きにして、ニットの帽子被ってる。家の中は暖かいから暑いんだろう、顔は火照っていてちょっと赤い。まさに準備万端、ってかんじだ。オレは視線を窓に向ける。結露付きのそれの向こうには寒そうな高い空が広がっていて、確かに凧飛ばしたら綺麗だろうとは思ったけど、でもかなり寒いだろう。もう一度兄をみて、んでまた窓の外を見る。雪は降ってないけど、絶対相当寒いはずだった。正直、かなり迷う。でも、俺が迷っていることに兄は気付いていない。野球してるときは相手チームのこと二手先くらいまで計算してるのに、オレが断ることなんか微塵も予想していないのが、バカっぽくてすごい可愛い(とか思うオレはたぶん相当な弟バカだと自分でも思う)。言い換えればそれはつまり、オレがいまだに子ども扱いされてるってことなんだろうけど、それでもオレはあのはにかむように笑う顔が見たいが為に、元気よく、うん!と返事をした。自分のコートとマフラーを取りに一度部屋に戻る。ついでに、兄の部屋にも寄って、手袋とってきてあげよう。あのひとは自分のことになるとほんと、無頓着だから。

『春の海とかわいいひと』