いろいろありすぎて疲れた身体を、ベッドに放りだす。
何もすることがなくなるといろんなことをぐるぐる考えてしまうのはわかっていたけれど眠らないわけにもいかないので、目を閉じる。すると勝手に今日一日を思い出し始めるから、オレの脳ミソはまったくもって厄介だ。
今日の試合の内容とか結果とか、
オレのこととかチームのこととか、
三橋の、こととか。
考えてると目頭が熱くなった。
涙もろいのは自覚してるから、けれど今日くらいはなにも考えずに泣いてやろうかと思う。誰も居ないオレの部屋。流石にシュンの部屋にまで聞こえるような声では泣けないけど、すこしくらい許されるだろう。
許してくれるだろうか。
オレを、許してくれるだろうか。
鼻の奥がツンとしてきて、でもマイナス思考をとめることは出来なかった。とめたくなかった。今日くらい、って自分を甘やかしてしまって、遂に涙が目から溢れ出た。情けないことこの上ないけど、もうどうにでもなれ、と思った。
「タカー、お客さん!」
階下の母親の声で現実に引き戻される。
今日くらい許して欲しいのに、母親はそれをしない。まあ、わかっていたことだけれども、でもたぶん、一般的な親なら、もう寝たとか今日はちょっと、とか言って客を追い返してくれるはずだ。というかそもそもオレへの来客なんてかなり珍しい。日が日だからきっと誰だか知らないが、お見舞いだろう。なら日を改めてくれ、と心底思う。一度気を緩めてしまってから涙は止まってくれなかった。とりあえず鼻をかんで、涙を拭って、玄関のドアを開ける。
驚いたのは本当だ。
まさか来るとは思わなかったから。というか、オレがケガしたのを知ってるとは思わなかったから。けれど実際のところ、オレより相手のほうが驚いているだろう。相手を確認した瞬間、オレはなにも考えずに、あろうことか抱きついていた。ありったけの力でしがみついたオレを、オレが今一番逢いたかったひとは困ったような声を出しながらも不器用な手で包み込んでくれた。そんなに遠くない昔を、思い出す。あの頃と同じ匂いに包まれて、今更だけれど、本当に今更だけれど、
そのとき初めてオレは、少しだけ声をあげて泣いた。
『憂い色』2007/10/2
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