5.多分本人は無自覚
メールを律儀に返信したり待ち合わせの5分前には着いていたりは当たり前。たとえば混雑している街を歩くとき、さりげなく左側を歩くところとか。たとえば凄くいやらしいリードをして脳ミソ疲れきった試合の後の電車、「起こしてやる」と誰かが言ったら安心してすぐに居眠りをするけれど絶対に右隣に座ってる奴には凭れ掛からないところとか。そういう何気ない行動の向こうにあのひとが居ることに、本人以外の皆が気づいている。
                                2008/04/16 水谷視点

4.戸田北「ます。」
月曜日。学校で何か嫌なことでもあったらしい。八つ当たりされて、誰もいない更衣室でこっそり泣いた。火曜日。まだ昨日の苛々が続いてて、これまた八つ当たりでわざと腹に6発やられた。泣かなかったけど盛大に吐いた。水曜日。まだ苛立って当たってくるのにホント腹立って練習後、やってらんねぇ!って怒鳴ってやったら目を丸くして無自覚を装いやがった。だから暫く口利かねぇって決めたのに、笑顔で会話してる今日の自分をぶん殴りたい。
                           2007/12/18 隆也と元希 戸田北


3.「まあ、似てなくはないけどさ?」
小学校で先生と母親を間違って呼ぶ子、クラスにひとりはいたし、高校に入った今でも田島は篠岡を「お母さん!」と元気いっぱいに呼ぶことがある。笑う篠岡と、紛らわしい!と身勝手に怒る花井(母親の自覚があるらしい)がほのぼのしていてそのときは楽しかったけど、やってしまった。呼んだときにはもう遅い。首をかしげる部員達のなかで、栄口だけがドン引きしてて、泣きそうになった。とりあえず、すみません監督。
                              2007/12/05 阿部とらーぜ


2.ちょっとは反省してる
十分過ぎるほどに足場を慣らしてバットを構える。この角度からこのひとを見上げるのは勿論初めてで、けれど当然、手加減なんかしない。サインを出すとオレの投手が小さく頷く。ミットを構えると、脚が僅かに震えた。緊張してるわけではない。「なあ」と声を掛けられて「試合中ですよ」と返すと、少し申し訳なさそうに、つり目がオレを見下ろした。「腰、だいじょうぶなわけ?」わかってんなら手加減してくれ!
                          2007/12/04 阿部と榛名 練習試合


1.もうちょっと寝かせてください
次の授業は移動だというのに未だ窓側の席で惰眠を貪り続けている華奢な肩を、最近知ったばかりの下名前を呼びながらそっと揺さぶる。おふざけというかなんというか、唯のノリでそうしただけだったのに、寝ぼけている彼から返ってきたのは普段の態度からは想像できない程ひどく甘ったるい敬語だったから、どう反応していいのやら判らなくなって、ふたり、顔を見合わせ気まずい雰囲気。
                               2007/12/04 花井と水谷